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贈与とは
税理士・行政書士 大長正司
生前贈与は、相続税対策の一番の基本といわれています。
相続税対策(節税等)の方法はいくつかありますが、中でも、生前贈与は比較的簡単に実行できる場合が多く、活用の仕方によっては節税効果を高めることができます。
贈与は、「あげる」、「受け取る」という双方の意思の合致があれば契約書などがなくても口約束だけで成立します。
ただし、贈与であることを第三者に主張するためには、契約書や振込履歴等の証拠を残すことが大切です。
せっかく相続税対策として贈与したと思っていても、「あげたつもり」、「もらったつもり」では贈与として認められません。
贈与として認めてもらうためには、いくつかの注意点があります。
贈与と認められないケース
税理士・行政書士 大長正司
- 贈与者(あげる側)があげるという意思を示しているが、受贈者(受け取る側)がそれを拒否した、知らなかった場合。
- 贈与の意味をまだ理解できない幼い子どもへの贈与。
- 贈与者(あげる側)自身が受贈者(受け取る側)名義の通帳や印鑑を管理して、ただその口座に振り込んでいるだけの場合(受贈者の意思が確認できるとはいえない場合)。
「贈与」にはならないケース①
例えば、ある母親が相続対策のつもりで、内緒で息子の名義の預金口座に毎年110万円を預金していたケースです。
預金通帳も印鑑も母親が管理しています。息子は、預金通帳の存在を知りません。
10年後にこの母親が亡くなり、息子名義の預金の残高は1,100万円になっていました。
この場合、一見すると贈与税の暦年課税制度を活用しているように見えますが、実態は母親の預金とみなされます(相続税の対象)。
このような名義預金は贈与したと認められません。
「贈与」にはならないケース②
例えば、ある夫婦がいます。夫はかつて会社員で現在退職しています。妻は結婚以来ずっと専業主婦です。
妻が、自分名義(妻名義)の預金口座に、夫の給与や退職金の一部を毎年110万円預金していたケースです。
25年後に夫が亡くなり、妻名義の預金残高は2,750万円になっていました。
この場合、妻名義の預金は亡くなった夫の財産とみなされます(相続税の対象)。
税務調査で名義預金とみなされないように、正しい方法で贈与し、贈与契約書を作成する等贈与の証拠はしっかりと残さなければいけません。
税理士・行政書士 大長正司
贈与についてご不明な点は、静岡相続手続きサポートセンターにお問い合わせ下さい。
みなし贈与財産について
贈与と認められない場合の例をみましたが、反対に、贈与したつもりはなかったのに贈与とみなされてしまう(みなし贈与)ケースもあるため注意しなければいけません。
「みなし贈与財産」についてご紹介します。
〈みなし贈与財産の例〉
- 生命保険金の受取り : 受取人以外の人が保険料を負担していた保険金を受け取った場合。(例)保険料支払者:妻、被保険者:夫、受取人:子→贈与とみなされます。
- 低額譲渡 : 一般的な価格と比べて、著しく低い価格で財産を譲り受けた場合、その差額は贈与とみなされます。
- 借金返済の免除 : 借金の返済を免除してもらって得た債務者の利益は、贈与によって受け取ったものとみなされます。
- 借金の肩代わり : 借金を代わりに返済してもらった場合に得た債務者の利益は、贈与によって受け取ったものとみなされます。
- 定期金受給権取得 : 掛金を支払っていた人以外の人が年金等の定期金の受給権を取得した場合は、贈与によって受け取ったものとみなされます。
生前贈与の方法
税理士・行政書士 大長正司
相続人に連年贈与する
贈与税は、1年ごとの贈与について課税されます(暦年贈与)。
贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、この基礎控除の範囲内の贈与であれば税金はかかりません。
ただし、連年贈与と認められるためには証拠を残すことが大切です。
- 贈与の都度、贈与契約書を作成する。
- 預金通帳や印鑑(銀行届出印)は受贈者(もらう人)が管理する。
- 贈与は現金ではなく、受贈者の預金口座へ入金する。
- 贈与の金額や時期を変えることも必要。
- あえて110万円を少しだけ超える金額を贈与し贈与税の申告・納税を行う。
相続開始前3年以内の贈与財産は、相続財産とみなされ相続税の課税対象となります。
連年贈与で相続税対策を行う場合は、できるだけ早めに開始しましょう。
配偶者に居住用財産を贈与する
婚姻期間が20年以上の夫婦には、贈与税の配偶者控除があります。
贈与税の配偶者控除とは課税価格から最高で2,000万円を控除できるというものです。
贈与税の配偶者控除を活用すると、基礎控除と合わせて2,110万円まで贈与税がかからないことになります。
マイホームの全部または一部を配偶者に贈与しておけば相続財産を減らすことが可能となります。
この制度は、居住用不動産そのものだけでなく、居住用不動産を取得するための現金も対象となります。
さらに、この特例を使った贈与は、相続開始前3年以内に行ったものでも相続財産に加算されることはありません。
注意点として、不動産を取得すると登録免許税や不動産取得税等の税金がかかります。登記を司法書士に依頼した場合は、司法書士手数料もかかります。
また、もらった側の配偶者が予想外に先に亡くなってしまうことも考えられます。
節税対策したつもりが実はそれほど効果はなく、後から後悔する場合もあります。
そうならないように、相続税のシミュレーションを行う等十分に検討する必要があります。
- 婚姻期間が20年以上。
- 居住用不動産の現物か取得のための資金の贈与であること。
- 住居を取得した翌年3月15日までに入居し、その後引き続き居住すること。
- 過去同じ配偶者の間に、この特例の適用を受けていないこと。
- 贈与の翌年3月15日(確定申告期限)までに確定申告を行うこと。贈与税が0円でも申告必要。
孫に生前贈与する
孫に贈与するということは、一代(子)飛び越えて贈与することになり、相続が1回減ることになります。
孫へ贈与することによって、「親から子」と同時に「子から孫」への相続財産を減らすことができ、相続税の節税対策が可能です。
ただし、贈与する金額によっては多くの税金を納めることになるため、結局トータルの税金は多くなってしまう場合もあります。
やはり事前に税金のシミュレーションは必要です。
子や孫に住宅取得資金を贈与する(2023年12月31日まで)
税理士・行政書士 大長正司
この制度は、子や孫へ住宅取得資金や増改築資金を贈与した場合、基礎控除と合わせて一定額までは贈与税がかからないというものです。
一定額とは、消費税が8%か10%か、住宅を取得した年月、省エネ等住宅かそれ以外かで変わってきます。
〈消費税8%の場合の非課税限度額〉
住宅用家屋取得等に係る契約締結日 | 省エネ等住宅 | 一般の住宅(省エネ等住宅以外) |
2016年1月~2020年3月 | 1,200万円 | 700万円 |
2020年4月~2021年3月 | 1,000万円 | 500万円 |
2021年4月~2021年12月 | 800万円 | 300万円 |
〈消費税10%の場合の非課税限度額〉
住宅用家屋取得等に係る契約締結日 | 省エネ等住宅 | 一般の住宅(省エネ等住宅以外) |
2019年4月~2020年3月 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020年4月~2021年3月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021年4月~2021年12月 | 1,200万円 | 700万円 |
住宅取得等資金の特例の適用を受ける場合、贈与者(あげる人)、受贈者(もらう人)、住宅や増改築工事について様々な要件があります。
これらの要件を一つ一つ確認する必要があります。
贈与者の要件
- 受贈者の直系尊属(祖父、祖母、父、母等)
- 年齢制限はなし
受贈者の要件
- 贈与を受けた年の1月1日において20歳以上
- 贈与を受けた時に日本国内に住所がある
- 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属である
- 贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに新築、増改築等して居住している
対象となる住宅
- 受贈者の居住用
- 家屋の登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下
- 中古住宅の場合築20年以下(耐火建築は25年以下)、ただし、一定の耐震性能を備えたものはこの限りではない
- 床面積の1/2以上が居住用であること
対象となる増改築工事
- 受贈者の居住用家屋の増改築工事
- 工事費が100万円以上、かつ、居住用部分の工事費が全体の1/2以上
- 増改築後の家屋の床面積の1/2以上が居住用
- 増改築後の床面積が50㎡以上240㎡以下
この特例を使った贈与は、相続開始前3年以内に行ったものでも相続財産に加算されることはありません。
子や孫に教育資金を贈与する(2023年3月31日まで)
教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置とは、直系尊属(父母など)から子や孫1人につき1,500万円(学校以外の費用は500万円)までの教育資金の贈与が非課税になる制度です。
適用を受けるためには、いくつか要件があります。
父母や祖父母等の直系尊属から30歳未満の子や孫への教育資金の贈与で、信託銀行等の預金口座へ預け入れます。
また、2023年3月31日までに金融機関に拠出されたものであること等の要件もあります。
受贈者(もらう人)が30歳に達した時に残高があれば、その残高に贈与税が課税されます。
もともと、教育費や生活費はその都度必要な時に贈与する場合は非課税です。
この制度は相続税対策として計画的に実行できますが、その都度が良いか、一括贈与が良いかの確認や検討は必要です。
手続きに手間がかかる等のデメリットもあります。
贈与者の要件
受贈者の直系尊属(祖父、祖母、父、母等)
受贈者の要件
・贈与者の直系卑属(30歳未満であること)
非課税限度額
受贈者1人につき1,500万円(うち学校等以外については500万円)
預入先
信託銀行や銀行、証券会社等
対象となる学校や教育費等の範囲も決まっています。詳しくは下記のサイトをご覧下さい。
参考 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税国税庁子や孫に結婚・子育て資金を贈与する(2023年3月31日まで)
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置とは、直系尊属(父母など)から子や孫1人につき1,000万円(うち結婚資金は300万円)までの結婚・子育て資金の贈与が非課税になる制度です。
しくみは教育資金の一括贈与と似ていますが、要件は異なります。
父母や祖父母等の直系尊属から20歳以上50歳未満の子や孫への結婚・子育て資金の贈与で、信託銀行等の預金口座へ預け入れる必要があります。
また、2023年3月31日までに金融機関に拠出されたものであること等の要件もあります。
もし贈与者(あげる人)が途中で亡くなった場合は、残額は相続税の課税対象になります。
贈与者の要件
受贈者の直系尊属(祖父、祖母、父、母等)
受贈者の要件
・贈与者の直系卑属(20歳以上50歳未満であること)
非課税限度額
受贈者1人につき1,000万円(うち結婚資金は300万円)
預入先
信託銀行や銀行、証券会社等
対象となる結婚・子育て資金の範囲も決まっています。詳しくは下記のサイトをご覧下さい。
参考 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税国税庁
税理士・行政書士 大長正司