もし「全財産を愛人に相続させる。家族には相続させない。」という遺言書が見つかったら、残された家族はどうなるのでしょうか。
この遺言書が認めらてしまったら、家族は1円も相続できないことになってしまいます。
遺留分とは
先ほどの例をみてみると、このような極端な遺言書があっても、一定の範囲の相続人には最低限の金額を必ず相続できる権利があります。
この権利のことを「遺留分」といいます。
遺留分の制度があるため、遺言書でこれを侵害することはできないのです。
遺留分は相続人全体で全財産の1/2となります。そして、それぞれの相続人の遺留分は、この全体の1/2に法定相続分を掛けて算出したものとなります。
ただし、法定相続人が直系尊属のみしかいない場合は、遺留分は全財産の1/3となります。
なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
そのため子供がいない夫婦であれば、相続で争いごとが起こらないように「全財産を妻に相続させる」という遺言書を作成することができ、有効な遺言書になります。
遺留分の具体例(法定相続分との比較)
次に遺留分の計算方法をみてみます。
それぞれのパターンごとに、法定相続分と比較しながら遺留分の計算方法を表にしました。
具体例①
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 | 1/2 | 1/2×1/2=1/4 |
長男 | 1/2×1/2=1/4 | 1/4×1/2=1/8 |
次男 | 1/2×1/2=1/4 | 1/4×1/2=1/8 |
具体例②
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 | 2/3 | 2/3×1/2=1/4 |
父 | 1/3×1/2=1/6 | 1/6×1/2=1/12 |
母 | 1/3×1/2=1/6 | 1/6×1/2=1/12 |
具体例③
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 | 1/2 | 1/2×1/2=1/4 |
長男 | 1/2×1/2=1/4 | 1/4×1/2=1/8 |
孫 | 1/2×1/2×1/2=1/8 | 1/8×1/2=1/16 |
孫 | 1/2×1/2×1/2=1/8 | 1/8×1/2=1/16 |
具体例④
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 | 3/4 | 3/4×1/2=3/8 |
兄 | 1/4×1/2=1/8 | 1/8×0=0 |
姉 | 1/4×1/2=1/8 | 1/8×0=0 |
兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分の対象となる相続財産
遺留分の対象となる相続財産は次の4つです。
- 被相続人の死亡時の相続財産
- 相続開始前1年以内の贈与財産
- 双方が遺留分を侵すことを分かった上で贈与した財産
- 相続人に対する一定の贈与財産(特別受益)
②についてですが、被相続人の死亡時から遡って1年以内の贈与は、誰に対する贈与であっても遺留分の対象財産に含まれます。
また、1年より前の贈与であっても③に該当する場合は遺留分の対象財産になります。
④は相続人への贈与で、例えば被相続人が子供に住宅取得資金の贈与を行っていた場合などが該当します(「特別受益」)。
特別受益の具体例
- 遺贈を受けた
- 住宅取得資金を受けた
- 家を建ててもらった
- 土地をもらった
- 結婚の際に持参金や支度金をもらった
- 特定の子どもだけ私立大学の医学部に進学して学費を出してもらった
- 独立開業した時に事業資金をもらった など
この場合、1年より前の贈与も含まれます。
遺留分侵害額請求権とは(遺留分減殺請求権から改正されました)
もしも、現実に遺留分が侵害された時にはどのように対応すれば良いのでしょうか。
そこで遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害している受遺者や受贈者、または他の相続人に対して不足分を請求することができます。
このことを、「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求は、相続の開始があったことを知った日から1年以内か、または相続開始から10年以内に行わなければなりません。
以前は遺留分減殺請求といわれていましたが、遺留分減殺請求は問題があったため現在の遺留分侵害額請求に改正されました。
具体的には、物権的効力から債権的効力に変更されています。
改正前 | 改正後 | |
名称 | 遺留分減殺請求 | 遺留分侵害額請求 |
効力 | 不動産等の現物も請求可能 | 金銭の支払いのみ請求可能 |
遺留分減殺請求権の問題点は、遺言書に長男に渡すと書かれた不動産があったとしても、その不動産は次男などとの共有財産になるため、それが相続税を納税するための不動産だったとしても売却できませんでした。
また、遺贈や贈与で不動産等の具体的な財産を与えたいと思っても、遺留分減殺請求権が行使された場合、遺言者の意思が尊重されない可能性がありました。
そこで、遺留分侵害額請求権に改正された結果、遺留分権利者は受遺者または受贈者等に対して、相続財産を共有する代わりに遺留分侵害額に当たる金銭の支払いを請求することができるようになりました。
つまり、遺留分減殺請求権は原則、現物返還でしたが(金銭の支払いは例外)、遺留分侵害額請求権は金銭請求に一本化されました。
遺留分侵害額請求の手続き方法
円満に解決するためには、まずは話し合いをすることが大切です。
ただし、話し合いを行ってもまとまらなければ遺留分侵害額請求の手続きを行うことになります。
その際に、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停をを申し立てます。
また、相手方にも意思表示を伝える必要があるため、調停の申し立てとは別に内容証明郵便等により意思表示を伝えることが必要になります。
遺留分侵害額請求調停に必要な書類
- 申立書およびその写し
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産に関する証明書(固定資産税評価証明書や預金通帳の写し等)
- 遺言書の写し など
調停を申し立てる時に必要な費用は、家庭裁判所に収める収入印紙代1,200円と連絡用の郵便切手代となります。
郵便切手代については、申し立てを行った家庭裁判所に確認してください。
また、弁護士と契約する場合は弁護士費用もかかってきます。
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